病む女性

 以前働いていたバーに、いつも手首に包帯を巻いている女がいた。「もしかしたら…」と思っていたが、やはり彼女は「病む女」だった。
 聞いてもいないのに、「これ?自分で切っちゃってさ…」と手首の包帯の説明を始めるこの女。当時28歳でバツイチ。旦那とは何が原因で別れたかは語らないが、結婚生活の中で「病んじゃって」自殺を図ったらしい。睡眠薬を大量に飲み、病院に運ばれたことや、シーツが血で真っ赤に染まるほど手首を切り刻んだ話を幾度となく聞かされた。
 きっと他人には想像もつかないほど辛い思いをし、自殺を図ったり、精神的な病気を患ってらっしゃる方はたくさんいるだろうし、その人たちを悪く言うつもりはないが、この女は「病んじゃって」という話を得意げに話すのだ。手首に包帯を巻いてはいるが、その傷はとっくに治っている。「私、病んでますアピール」をすることによって、男性客の気を引こうというのが見え見えだった。しかし、彼女の思惑は見事に外れ、男性客は彼女の話を聞くとさっと表情を硬くし、早々に切り上げて帰ってしまう。
 「守ってあげたくなるような女性」が好きな男性は多いが、手首を切り刻んだ話を、目を輝かせてするような女性を好きな男性はいない。初対面での「病んでますアピール」は、ただの「めんどくさい女アピール」でしかないのだ。